平成23年8月1日日経新聞夕刊より
「インプラント手術で患者死亡 院長を書類送検」
この記事を読んで気になる事があります。
新聞記者は読者に分かりやすく書くために、かえって読者が誤解を生じるように感じます。
①出血が原因であるが、出血は死因ではないこと。死因は窒息と考えられます。
おそらく下顎の犬歯か小臼歯部の手術で、下顎骨の内側に穿孔したと考えます。
犬歯、小臼歯根尖部の下顎骨舌面には舌下腺窩とよばれるくぼみがあります。
舌下腺窩に穿孔すると、舌下動脈、オトガイ下動脈を損傷する危険性が高いのです。
舌下動脈、オトガイ下動脈は太く、血流が多いため、止血が困難です。
止血が出来ないと、口底部に血腫を生じ、舌の後上方への転移、舌が口蓋へ押しつけれて窒息します。
今回の事故はどのような臨床家でも起こしうる偶発症です。
過去の文献を探してみると、同じようなケースが多数あります。
共通しているのは、インプラント手術の初心者ではなく、専門医が起こしているということ。
したがって、誰にでも起こしうることなのです。
しかし、予防策はあります。
術前の詳細な診査による診断をすること。
CTによる術前診査も必要でしょう。
また、事故が起きた際の対処方法を準備しておくこと。
一般的に、これが足りないのではないのでしょうか。
気道閉塞→気道確保→救急搬送の手配→気道確保困難→外科的気道確保、等々。
準備するものが多くあり、またトレーニングが必要だと思います。