カテゴリ: 顎関節症

「かみ合わせ」の基準

葛飾区金町 尾澤歯科医院院長の野村です。

「かみ合わせ」のお話。

「かみ合わせ」って何でしょう?

上下の歯が咬むこと?

では、何がかみ合わせを決めるのでしょうか。

下顎の位置、すなわち下顎位です。

上顎は動きませんので、下顎が顎関節を中心に動くのです。

顎関節はドアの蝶番のような単純な動きではなく、前方、側方、上方へ複雑な動きをするのが特徴です。

ヒトの関節の中で最も複雑な動きをするのが顎関節です。

最適な下顎位とは?

例えば、全顎的に治療をすると、基準となる歯が無くなります。どこで咬んだらいいのか分からなくなります。

ここで、「ハイ、咬んでください!」などと言って患者さんに咬ませる歯科医が多いと思いますが、これが非常に問題なのです。

かみ合わせのずれが生じ、ずれたかみ合わせでかぶせもの(冠などの補綴物)が出来上がります。患者さんは、「何か変だなー」と感じるもののそのまま過ごしていきますが、段々と顎関節に負荷がかかってきます。

このような負担により、「顎関節症」となってしまうことがあります。

顎関節症の症状は様々ですが、ひどい疼痛により体のあちらこちらに不定愁訴を訴える患者さんもいます。

我々は何を基準に「かみ合わせ」を考えるか?

「中心位」です。

Centric relation(CR) と呼ばれ、現在までアメリカの学会を中心に様々な議論がされてきました。

その最新の2017年に改訂された定義。

「歯の接触に依存しない上下顎の関係であり、この位置で下顎頭は関節隆起の後部斜面に対して前上方に位置し、関節をなす。この位置で下顎は純粋な回転運動に限局される。この緊張がなく、生理的な上下顎の関係から、患者は、上下、左右、前方への運動をおこなうことが可能である。この位置は臨床的に有用であり、再現性のある基準位である。」

何で歯科医師の中には、中心位の診査を行わない人がいるのか?

習っていない。難しい。そんなことをしなくてもうまくいっている。などでしょう。

確かに、中心位への誘導は適切なインストラクターによるトレーニングと、日々の臨床におけるトレーニングなしでは不可能ですし、自己流で行っている先生方は、顎関節を後方に押し込む力をかけてしまい、余計に深刻な事態になってしまう傾向にあります。

「かみ合わせ」のずれによる不定愁訴が多く出ている患者さんの治療について。

まずは基準位である中心位に戻します。

しかし、一度強い疼痛による不定愁訴がでている患者さんの治療は非常に困難になります。長期にわたり改善しないケースも多くあります。じっくりと地道な治療が必要になるのです。

まずはこのようにならないように、適切な診査がとても大事であるということを、今回は「中心位」を例にとりあげました。

投稿日: by nomura

顎関節症とかみ合わせは関係があるのでしょうか?

「顎関節症」と「かみ合わせから引き起こされる病気」は同義ではありません。

顎関節学会ではこのように解釈されています。

私も個人的にはこの考えを支持します。

基本的に正しいのですが、例外はあります。

先月来院された顎関節症の患者さん。

顎が痛いと来院されました。

診断は顎関節症Ⅰ型。すなわち咀嚼筋障害を主徴候としたもの。

左側の顎関節疼痛。肩こり、耳鳴り、頭痛など不定愁訴がありました。

咬合診査をしたところ、右側が全く咬合していません。インプラントも入っていましたが、上下の歯は目で見ても隙間がありました。

右に即席の仮歯をつくり、左右均等に噛めるようにしました。

次回の来院時には、長年の頭痛、肩こり、耳鳴りが嘘のように消失しました。

かみ合わせの左右のバランスが極端に悪いと顎関節に負担をかけるのは当然のことです。

しかし、前医での治療において、かみ合わせを無視して作ったのでしょうか?

おそらく、その時は顎関節の状態、筋の緊張状態などの要因で、その位置で噛んでいたのだと思います。

顎関節症の難症例ではそのようなことが起こりえます。

慎重に経過を観察しながら仮歯から、最終の歯に移行する必要があるのです。

「症状が良くなった」と手放しで喜ぶのは早いと思っています。

投稿日: by nomura