インプラント
インプラントは治療の1つの方法です。
お口の中は人それぞれ違いますし、価値観も違います。また、自費治療になるため、費用面でのご心配もあると思います。患者様に合った方法で治療をお勧め致します。
インプラント治療について
インプラント治療とは
インプラント治療とは、歯を失った部分のあごの骨に人工歯根の「インプラント体」を埋め込んで、歯の根の変わりの役割をし、土台を立てて、被せ物をする治療です。
インプラント体はあごの骨に定着するので、天然歯のように自然な噛み心地を実感できます。
また、セラミックの被せ物を使用すると、経年変化でも黄ばんだような変色がなく、透明感のある自然な被せ物を手に入れられます。
インプラント治療は、歯を失った時に行う「ブリッジ」「部分入れ歯」と違い、あごの骨に刺激が伝わるので、あごの骨が痩せるのを防ぐ効果も期待できます。
インプラント治療の対象
あごの骨が充分にあること
インプラントは歯を失った時に適応される治療ですが、インプラント治療をするためには条件を満たしている必要があります。
インプラントはあごの骨を支えにするため、あごの骨に十分な厚みや高さがあることが条件になります。
ただし、歯周病が進行して歯を失った方は、あごの骨が痩せていることも少なくありません。
また、加齢や長い期間、歯を失っていた方はあごの骨が少ない傾向になります。
あごの骨は自然に戻ることがないため、その場合には骨再生療法を行ってあごの骨の再生を促す手術が必要です。
全身疾患が安定していること
また、インプラントは本数が少なくあごの骨が充分にあると親知らずの抜歯程度の負担といわれていますが、外科手術を伴います。
そのため、重度の全身疾患がある方は慎重に対応する必要があります。
- 高血圧症
- 脳血管疾患
- 心臓病
- 糖尿病
高血圧症の方は、インプラント手術の際に高血圧症の原因になっている「動脈硬化」が進行して、脳や心臓に負担がかかると合併症を引き起こす可能性があります。
脳の場合には、くも膜下出血・脳出血・脳梗塞が考えられ、心臓の場合には心筋梗塞・心不全・狭心症のリスクがあります。
そのため、高血圧症のお薬を服用して血圧がコントロールできていない場合には、インプラント手術は行いません。
血圧がコントロールできて、安定していることなどの一定の条件を満たしている場合は、主治医と連携のもとでインプラント治療を行う場合もあります。
糖尿病の場合には、免疫力が低下するので、インプラント手術後の傷の治りやあごの骨との定着が悪くなるリスクがあります。
血糖がコントロールできている状態であれば、問題ないですが、血糖コントロールができていない重度の方はインプラントが難しい場合があります。
このように特定の全身疾患があって症状が安定していることが条件になります。
状態次第でインプラント治療が可能なケースもありますので、インプラント治療が気になっている方は、まずは1度ご相談ください。
インプラント治療の流れ
STEP1 カウンセリング
まずは、カウンセリングで現在のお口の状態やお悩みを詳しくお伺いします。
疑問や不安なことは、インプラント治療を開始する前に解決しておくことが大切だと考えているためです。
お口の状態だけでなく、インプラントの治療のメリットやデメリット、ほかの治療法などについてもお話させていただき、患者さまにとってより良い治療をご提案させていただきます。
インプラントについてのご説明を受けて、納得していただいた上で精密検査に進みます。
STEP2 術前検査
お口の状態を詳しく検査していきます。
歯周病・むし歯の検査・かみ合わせ・筋肉の状態・顎関節などを確認していきます。
口腔内写真撮影・レントゲン撮影・歯型の型取り・オーラルスキャナーによるスキャニング・CT撮影等を行い、立体的な画像を確認してシュミレーションソフトを使って神経の位置、血管の位置などを診断します。
その上で、インプラント体を埋入する理想的な角度と位置を決めていきます。
シュミレーションデータをもとにインプラントの埋入位置や角度をガイドするマウスピース型の装置を作製します。
この装置を作製することで、フリーハンドで手術するより的確にインプラントの角度や埋入位置を設定することが可能で、手術時間を短縮して、歯ぐきの切開を最小限に抑えることができます。これはコンピューター ガイデッド サージェリーと呼ばれています。
STEP3 インプラント1次手術
インプラント手術ですが、入院する必要がなく日帰りで帰宅できます。
また、あごの骨が充分にあり、本数が少ない場合には1時間程度で終わることもあります。
局所麻酔を行い、歯の根の部分の役割をする「インプラント体」を埋め込んでいきます。
そして、縫合をして歯ぐきを閉じます。
フラップレスサージェリーといって、歯ぐきを切開せずに手術をする方法があります。
あごの骨が充分にあることが条件となります。切開、縫合をしないため、治癒が早まります。
コンピューター ガイデッド サージェリーと併用して行います。
STEP4 インプラント2次手術
インプラントは、個人差がありますが、あごの骨に定着するまでの期間を2~3ヶ月待ちます。その間は月に1回程度クリーニングに通っていただき、お口の状態も確認します。
インプラントがあごの骨としっかり定着したのを確認してから、2回目の手術を行います。
歯ぐきの中で定着を待っていたインプラント体の上に土台になる「アバットメント」をつけます。
切開した歯ぐきが治癒するのを1~2週間程度待ちます。
即時インプラント
インプラントは1次手術と2次手術を行う方法と1回で仮歯まで装着する即時インプラントの方法があります。
即時インプラントはあごの骨の高さや厚みが充分にあるなどの条件がありますので、治療計画の時にどちらの治療が患者さまにより良い治療かご提案いたします。
STEP5 被せ物の型取り
被せ物を製作するための型取りを行います。
オーラルスキャナー(3 Shape社 TORIOS®︎)にて口腔内スキャニングを行います。
従来の印象材による方法と比べてより精密に行うことが可能となりました。
ほかの歯に合わせた色を患者さまと相談して決めていきます。
インプラントはかみ合わせがとても重要なので、精密にかみ合わせを確認します。
STEP6 被せ物の装着
完成した被せ物のかみ合わせや色を最終的に確認します。 問題なければ装着して、お食事などをしてもらい、かみ合わせが適切かチェックします。
STEP7 メインテナンス
インプラントは汚れがついたままになっていると、「インプラント周囲炎」になってしまい、インプラントトラブルの原因になります。
そのようなことにならないために、毎日のセルフケアと定期的なメインテナンスで良い状態でインプラントを長持ちさせましょう。
一般的には3~6カ月に1度、定期メンテナンスに通っていただき、インプラントの状態や口腔内環境のチェック、クリーニングを行っていきます。
歯を失った時のインプラント治療以外の選択肢
ブリッジ
ブリッジは、両隣の歯を削って橋渡しのように、失った部分を補って被せ物をする治療です。
失った歯が1~2本の場合には、左右の歯は残っているので、その部分を土台として使います。取り外し式ではなく、固定式のため歯が動かない状態であれば、動揺することはありません。
見た目も大きく変化することなく、使用できます。
ただし、ブリッジを製作する際には、左右の歯を削らなければいけません。
歯は一度削ってしまうと元には戻らず、歯の寿命を縮めてしまうこともあります。
また、歯を失った部分は汚れが取れやすいなどの理由から、歯ぐきから少しすき間が開いているのですが、その分汚れが残ってしまうことも。
入れ歯
入れ歯は歯を失った部分を補う人工歯のことで「義歯」といわれます。
入れ歯にはほかの歯が残っている時に使用する「部分入れ歯」とすべて歯を失った時に使用する「総入れ歯」がありますので、ご紹介します。
・部分入れ歯
部分入れ歯は、1~数本歯を失った時に行う治療で、残っている歯が1本でも対応ができます。
構造は、失った歯の部分を補う「人工歯」と粘膜部分を補う「床」とこれらを残っている歯に支えるばねの「クラスプ」からなります。
健康な歯をほとんど削る必要がないので、治療回数は少ないです
ただ、部分入れ歯のデメリットは、「噛む力が弱くなること」です。
取り外し式のため、カタつくことや安定感が弱いことが少なくありません。
噛む力は天然歯よりかなり落ちるため、違和感も覚えやすくなります。
また、金属のばねをかける必要があるため、入れ歯をしていることが分かりやすく、見た目が気になってしまうことも。取り外して洗浄が必要なので、旅行などの時に見られたくないという方もいます。
・総入れ歯
総入れ歯は上下どちらかの歯がすべて無い場合に適応になります。
そのため、歯が1本も残っていない場合、総入れ歯による治療になります。
総入れ歯は歯ぐきの部分にあたる「床」に「人工歯」が並んでいる構造で、かみ合わせや見た目を回復するために製作します。
歯ぐきを固定とするため、安定感が少なくなってしまいます。
そのため、粘膜とすれて痛い・噛みにくいなどのデメリットがあります。
差し歯とインプラントの違い
差し歯とインプラントはよく間違われやすい治療です。
「差し歯」は歯の根が残っている歯に土台を立てて、その上に被せ物をする治療です。
一方インプラントは、歯を失っているので、そのあごの骨の部分に「インプラント体」を埋め込んで、その上に土台を立てて被せ物をする治療です。
差し歯は歯の根の部分が残っている方が対象になりますが、インプラントは歯を失った方でも行える治療です。
インプラントのメリット・デメリット
メリット
・ほかの歯に負担をかけない
インプラントの大きなメリットは、ほかの歯に負担をかけることがない点です。
ブリッジの場合には、左右の歯を削る必要があるため、歯の寿命を縮めてしまう可能性がありま。部分入れ歯の場合も同様に、ばねをかける歯が歯を失った部分を支えるため、負担がかかってしまいます。
インプラントは、単独で治療ができるので、周囲の歯に負担をかけることなく治療ができます。
・天然歯と同じような噛み心地を実感できる
部分入れ歯の場合には、取り外し式なので、安定しにくく違和感を覚えやすいです。
インプラントはあごの骨にインプラント体を埋め込んでその上に土台を立てるので、安定しやすく、天然歯と同じような噛み心地を実感できます。
・あごの骨が痩せるのを防ぐ効果が期待できる
歯を失うと、根の部分がなくなってしまうので、あごの骨に刺激が伝わりにくくなります。
ブリッジ・入れ歯は、歯の根の部分を回復できないため、刺激が伝わりにくく、歯を失った部分のあごの骨が少しずつ痩せていきます。
それに対して、インプラントの場合には、あごの骨にインプラント体を埋め込むので、噛んだ時にあごの骨に刺激が伝わり、あごの骨が痩せるのを防ぐ効果が期待できます。
デメリット
・保険が適応できないので、費用が高い
インプラントはほとんどの場合、保険が適応にならないので、ほかの治療に比べて費用が高くなります。ただ、ほかの歯に負担をかけることなく、天然歯のようなかみ心地を実感できます。
支払いはクレジットカードで分割払いも対応していますし、医療費控除の対象になるので、確定申告をすると税金の控除や還付が受けて、医療費を抑えることができます。
・治療期間が長い
インプラントはあごの骨に定着するまでの期間、個人差はありますが、6週~6ヶ月程度の間待つ時期があります。
骨の量が十分にある場合で、初期固定が十分な場合は、当院で使用するストローマン社製インプラントを使用した場合、6週程度で荷重をかけることが可能です。
骨の量が不十分で骨増生が必要であったり、初期固定が不十分な場合は4~6ヶ月の治癒期間が必要になります。
その間は毎週通う必要はありませんが、1ヶ月に1度程度クリーニングとインプラントの状況を確認させていただきます。
▼インプラント治療を迷われている方へ
インプラント治療は見た目も自然で、天然歯と同じような噛み心地を実感できるメリットの多い治療です。
メリットが多いので、歯を失った時の選択肢として選ばれる方も多くなってきました。
インプラント治療で分からないこと、不安に思っていることがありましたらぜひ1度お気軽にご相談ください。
インプラント治療の概要やカウンセリングで患者さまのお口の状況に合わせて、よりよい治療をご提案させていただきます。
当院にて使用する「ストローマン社製インプラント」について
1.ストローマンインプラントとは?
スイスに本社を置く、世界中で使われているインプラントメーカーの中でトップシェアのメーカー。
その歴史は古く、1960年代から開発が続けられています。
数多くの科学的論文により科学的エビデンスに裏付けられた信頼のおけるインプラントメーカーです。
2.尾澤歯科医院においてストローマンインプラントだけを使う理由は?
当院において、30年前より数多くのインプラントメーカー取り扱ってきました。
その中で最も臨床成績が良いインプラントがストローマン社の製品でした。
従って現在では、ストローマン1社のみの取り扱いとなります。
数多くの論文が証明していますが、実際の臨床においても素晴らしさを実感しています。
似たメーカーは多くありますが、表面性状、材質、臨床における操作のし易さ、治療成績など様々な視点より他のメーカーより優れています。
また、世界的に有名なインプラントメーカーですので国内のみならず、世界中どの国においても修理等の対応が可能になります。
症例
症例1
図1
尾澤歯科医院における手順を示します。
下顎の臼歯2本が欠損している状態です。 ブリッジ、部分入れ歯、インプラント補綴の治療が可能です。 今回はインプラントにて治療することになりました。
図2
ワックスにて目標となる歯の形態を作成します。
図3
レントゲン写真です。
この写真では骨幅、骨の高さ、神経までの距離等の詳細がわからないためCTによる診査をおこないます。
図4
CT上でインプラント手術のシュミレーションをおこないます。ピンクの丸部が下歯槽神経です。 インプラント埋入予定位置より2mm以上離れているのを確認します。
図5
CTデータを元にサージカルガイドを作成します。
CT上にてインプラント埋入を設計しましたが、その位置にインプラントを埋入させるための装置となります。設計通りの手術をすることが可能になります。
図6
予定の位置に「フラップレスサージェリー」にてインプラントを埋入しました。
粘膜にメスで切開を加えない術式です。切開しないため、糸にて縫合がありません。従って、痛みは少なく低侵襲手術が可能になります。
全ての症例に適応する方法ではなく、術前診査にて十分に安全を確認が出来た症例のみおこなうことが可能です。
図7
オステル®にてインプラントの安定性を計測します。 ISQ85は高い安定性を示しています。
図8
インプラントに専用の装置を着け、口腔内スキャナー(TORIOS®)にて型どり(印象採得)を行います。 従来はシリコーン印象材を使用して型どりをしますが、より精度を高めるために高性能の専用スキャナーを使用しています。速やかにデジタル印象データを取得できます。インプラント以外の通常の被せ物の印象にも使用します。
図9
歯の色は様々ですので、色合わせをします。
図10
フルジルコニアクラウンを装着しました。セメント固定かスクリュー固定を選択します。今回はクラウンの固定はスクリューにて固定(ネジ止め)しました。
定期的なメインテナンスにて、インプラントを含め口腔内の管理をすることが大事です。
症例2
図1
右側にブリッジがありましたが、歯根の破折により抜歯となりました。
治療の選択肢として①ブリッジ ②部分入れ歯 ③インプラント の説明をしました。
ブリッジは更に長いブリッジが必要となること、歯を削ってかぶせる必要があることが最大の欠点になります。
部分入れ歯は取り外しや清掃の煩雑さが欠点です。逆に、簡単に治療が可能な点は長所になります。
インプラントは治療時間がかかり、費用も自費治療なことから長所ばかりではありませんが、しっかりと噛み合わせができる点、歯を削らなくて良い点から、患者様はインプラントを選択しました。
図2
レントゲン写真にて歯が折れているのが分かります。
図3
インプラントを2本埋入し、インプラント用のアバットメント(土台)を入れました。
図4
5年後のレントゲン写真と口腔内写真です。
この症例では歯ぎしりがあったため、咬合面に金属を少し使用しています。特に問題なく経過しています。
症例3
図1
左側の前歯が折れて来院しました。
隣在歯を削りたくないため、インプラントをお勧めしました。
図2
インプラント埋入3か月後口腔内
図3
インプラント埋入3か月後レントゲン写真
図4
アバットメント(土台)装着
図5
印象用コーピング装着
図6
印象採得(インプラントの型取り)
図7
歯の色を合わせます
図8
PFM(金属にポーセレンを焼き付けた冠)装着
図9
PFM装着3年後のレントゲン写真。安定した歯周硬組織像です。
症例4
インプラントオーバーデンチャーの症例です。
インプラント上にマグネットを装着し、総義歯の安定をはかります。
図1
口腔内写真です。
インプラント上にマグネットのキーパー(金色の部位)を装着してあります。
図2
義歯にマグネットを接着してあります(金色部)。
図3
義歯を口腔内に装着した写真です。
下顎総義歯は、解剖学的理由により義歯を安定させるのは難しい場合があります。インプラントオーバーデンチャーにすることで、義歯の安定が得られます。
症例5
インプラントオーバーデンチャーの症例です。バーアタッチメントを利用した義歯の場合は次のようになります。
図1
口腔内写真です。
インプラントは2本~4本必要です。バーにて連結します。義歯側にアタッチメントを接着し、強固な安定が得られます。
図2
義歯にアタッチメントを接着させます(金色部)。
総義歯、特に下顎総義歯にインプラントを2~4本入れることで、義歯の安定が得られます。この手法については既に確立されたものであり、安心して行うことができます。